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   宍戸は、到着したその場所で、呆然と立ち尽くしていた。

   結局、あれから、二人は東南アジアの空港で一度乗り換えをし、さらに五時間飛行機に

   乗り、その後、船を使って小さな島までやってきていた。


   宍戸の目の前には、真っ白な砂浜がどこまでも広がっていた。こんなに白い綺麗な

   粒の整った砂は見た事が無かった。


   「宍戸さん。ここには俺達の他は誰も住んでいません。無人島なんです。

   島と言うよりも、大きな珊瑚礁なんですよ。これは、岩が削れてできた砂浜では

   ありません。全て珊瑚礁なんです。」


   波打ち際で、腰を下ろしていた鳳が、そんな事を宍戸に言ってきた。


   宍戸は、長い乗り物での移動に疲れていたのだが、
そんな事を全て忘れてしまうほど、

   その見事な景色に魅入っていた。


   ブルーと言うよりも、宝石のエメラルドに近い海の色。


   その透明度は、宍戸が浜で見ていても、泳いでいる色彩豊かな魚達の姿が鮮明に

   わかるほどだった。
空は、どこまでも澄み切り、海の色と同化していた。

  「長太郎。ここに立っていると、地球が丸いのが良くわかるよ。」

   宍戸は、両手を大きく広げて風に吹かれていた。


   東京のようにゴチャゴチャと住居や店が建ち並んだり、大きなビルの姿も、この場所には

   全く無いのだ。

   この島には、エメラルドの海と、生い茂る木々があるだけだ。

   何も景色を遮断する邪魔なものが無いのだ。


   宍戸が、グルリと周囲を見渡すと、深い緑色に茂っている南国風の木々の間から、

   遥か遠い地平線の彼方まで見渡せた。


   「そうですね。地球なんて、こんな一瞬で見渡せるくらい狭い世界なのかもしれない。 」

   鳳は、そっと溜め息をつくようにそう呟くと、宍戸の瞳をじっと見つめてきた。


   「宍戸さん、少し早いのですけれど。誕生日のお祝いをさせてください。

    九月二十九日は、宍戸さんのお誕生日ですよね? 本当におめでとうございます。」


   宍戸は、その言葉に面食らってしまった。


   確かに、宍戸は九月生まれだが、誕生日には、まだ二週間以上もあるのだった。


   「えっと。ありがとう。あの……それで、この島に連れてきてくれたのか? 」

   鳳は、苦笑しながら、こんな話を始めたのだ。


   「宍戸さん。俺、あなたの本当の誕生日には、きっと祝う事ができません。

    俺、もうすぐ、氷帝学園を退学するんです。十月から、ヨーロッパの学校へ行く事が

    決まっています。きっと、その頃は、東京からずっと
離れた異国の地にいるんですよ。」

   思いも寄らなかった鳳の告白に、宍戸は、何と言葉
を返して良いのかわからずに、

   白い砂浜で一人立ち尽
すしか無かった。

                         

   鳳の事情は、こういう事らしいのだ。


   あの花火大会の日。彼は、先輩の宍戸亮と付き合っている事を、両親に告白したのだった。


   確かに、あれだけ大がかりに河川敷で、花火を打ち上げたりしたら、親に不思議に

   思われないわけが無かった。当然、鳳の両親は、息子の将来を心配して、海外留学の

   話を持ってきたらしい。


   「酷いと思いませんか? 宍戸さん。人の話を聞こうともしないで、学園を退学しろ……

    なんて。一体、何を考えているのか、親の気持ちが俺にはサッパリ理解できません。

    学校へ行って勉強をするのも、部活でテニスをやるのも、恋人を作るのだって……。

    そんな事まで、全て親の指示通りにしないとならないのでしょうか? 」


    宍戸は、無言で鳳の話を聞いていた。しかし、鳳とは違って、宍戸は、そんな親の心情も

    少しだけ理解できるような気がしていた。


    鳳長太郎は、彼らの一人息子なのだ。


    女性の恋人を連れてきたのなら、まだしも。まさか、息子が男性を恋人にしている

    なんて、彼の両親は想像をした事も無かっただろう。


    宍戸自身も、自分の両親に、鳳との事を打ち明ける勇気は無かったのだ。ましてや、

    お堅い教師をしている父親が、二人の仲を認めてくれるとはとても思えなかった。


   それに、自分達は、まだ義務教育も済んでいない中学生なのだ。せめて、社会的に

   自立を認められた大人だったのなら、何とかできたかもしれない。


   「……長太郎。俺は、お前の両親の気持ちがわかるよ。

    たぶん、親御さんの言う通りだ。」




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