2ページ目/全3ページ 宍戸は、到着したその場所で、呆然と立ち尽くしていた。 結局、あれから、二人は東南アジアの空港で一度乗り換えをし、さらに五時間飛行機に 乗り、その後、船を使って小さな島までやってきていた。 宍戸の目の前には、真っ白な砂浜がどこまでも広がっていた。こんなに白い綺麗な 粒の整った砂は見た事が無かった。 「宍戸さん。ここには俺達の他は誰も住んでいません。無人島なんです。 島と言うよりも、大きな珊瑚礁なんですよ。これは、岩が削れてできた砂浜では ありません。全て珊瑚礁なんです。」 波打ち際で、腰を下ろしていた鳳が、そんな事を宍戸に言ってきた。 宍戸は、長い乗り物での移動に疲れていたのだが、そんな事を全て忘れてしまうほど、 その見事な景色に魅入っていた。 ブルーと言うよりも、宝石のエメラルドに近い海の色。 その透明度は、宍戸が浜で見ていても、泳いでいる色彩豊かな魚達の姿が鮮明に わかるほどだった。空は、どこまでも澄み切り、海の色と同化していた。 「長太郎。ここに立っていると、地球が丸いのが良くわかるよ。」 宍戸は、両手を大きく広げて風に吹かれていた。 東京のようにゴチャゴチャと住居や店が建ち並んだり、大きなビルの姿も、この場所には 全く無いのだ。 この島には、エメラルドの海と、生い茂る木々があるだけだ。 何も景色を遮断する邪魔なものが無いのだ。 宍戸が、グルリと周囲を見渡すと、深い緑色に茂っている南国風の木々の間から、 遥か遠い地平線の彼方まで見渡せた。 「そうですね。地球なんて、こんな一瞬で見渡せるくらい狭い世界なのかもしれない。 」 鳳は、そっと溜め息をつくようにそう呟くと、宍戸の瞳をじっと見つめてきた。 「宍戸さん、少し早いのですけれど。誕生日のお祝いをさせてください。 九月二十九日は、宍戸さんのお誕生日ですよね? 本当におめでとうございます。」 宍戸は、その言葉に面食らってしまった。 確かに、宍戸は九月生まれだが、誕生日には、まだ二週間以上もあるのだった。 「えっと。ありがとう。あの……それで、この島に連れてきてくれたのか? 」 鳳は、苦笑しながら、こんな話を始めたのだ。 「宍戸さん。俺、あなたの本当の誕生日には、きっと祝う事ができません。 俺、もうすぐ、氷帝学園を退学するんです。十月から、ヨーロッパの学校へ行く事が 決まっています。きっと、その頃は、東京からずっと離れた異国の地にいるんですよ。」 思いも寄らなかった鳳の告白に、宍戸は、何と言葉を返して良いのかわからずに、 白い砂浜で一人立ち尽すしか無かった。 ★ 鳳の事情は、こういう事らしいのだ。 あの花火大会の日。彼は、先輩の宍戸亮と付き合っている事を、両親に告白したのだった。 確かに、あれだけ大がかりに河川敷で、花火を打ち上げたりしたら、親に不思議に 思われないわけが無かった。当然、鳳の両親は、息子の将来を心配して、海外留学の 話を持ってきたらしい。 「酷いと思いませんか? 宍戸さん。人の話を聞こうともしないで、学園を退学しろ…… なんて。一体、何を考えているのか、親の気持ちが俺にはサッパリ理解できません。 学校へ行って勉強をするのも、部活でテニスをやるのも、恋人を作るのだって……。 そんな事まで、全て親の指示通りにしないとならないのでしょうか? 」 宍戸は、無言で鳳の話を聞いていた。しかし、鳳とは違って、宍戸は、そんな親の心情も 少しだけ理解できるような気がしていた。 鳳長太郎は、彼らの一人息子なのだ。 女性の恋人を連れてきたのなら、まだしも。まさか、息子が男性を恋人にしている なんて、彼の両親は想像をした事も無かっただろう。 宍戸自身も、自分の両親に、鳳との事を打ち明ける勇気は無かったのだ。ましてや、 お堅い教師をしている父親が、二人の仲を認めてくれるとはとても思えなかった。 それに、自分達は、まだ義務教育も済んでいない中学生なのだ。せめて、社会的に 自立を認められた大人だったのなら、何とかできたかもしれない。 「……長太郎。俺は、お前の両親の気持ちがわかるよ。 たぶん、親御さんの言う通りだ。」 1ページ目へ戻る ![]() ![]() 小説目次ページへ戻る ![]() |